Inflation Reduction Act:インフレ抑制法案による税制変更の解説とお知らせ

長い時間と議論の末、米議会上院は8月7日、歳出総額約4300億ドルの「インフレ抑制法案」を可決しました。8月12日に下院の可決を経て法案が成立しました。今回の大型法案の要点は、税制の変更によって大きく歳入を増やし、その歳入から気候変動対策への投資と財政赤字への補填をすることです。今後、一般の納税者にも関わる内容ですので、是非解説を参考にしてみてください。

概要

  • インフレーション対策のため、大幅に赤字削減
  • 消費者をグリーンエネルギーに移行させ、二酸化炭素排出量を2030年までに約40%削減
  • 高齢者の処方薬コストを削減、医療保険制度の拡充
  • 大企業への課税強化
  • IRSによる税金取締強化
歳入総額7,370億ドル
15%の最低法人税2,220億ドル
メディケア、高齢者の処方箋コスト削減2,650億ドル
IRSによる税金取締強化1,240億ドル
企業の自社株買いに1%の課税740億ドル
Loss Limitation extension(事業の損失相殺の制限延長)520億ドル


歳出総額4370億ドル
気候変動対策3,690億ドル
医療保険制度の拡充640億ドル
米国西部の旱魃対策40億ドル


赤字削減3,000億ドル超

*2022年8月11日現在 「based on democrats.senate.gov.media」

当初、Carried Interest Loopholeの停止が法案に入っていましたが、この条項は廃止され、代わりに企業の自社株買いに1%の課税を行うという条項が加わり、740億ドルの歳入が見込まれています。さらに、Loss Limitation extensionと米国西部の旱魃対策が追加で加わりました。

税制の変更

電気自動車購入者へのタックスクレジット(税額控除)

気候変動対策のための3,690億ドルの投資は、ソーラーパネル、風力発電等のクリーンエネルギーへの移行のために使用されます。また電気自動車購入者にも恩恵が受けられます。

電気自動車の購入者は現在、最大7,500 ドルのタックスクレジットを受ける資格がありますが、特典は各自動車メーカーが販売する最初の200,000台の対象車両に限定されています。新しい法案はこの対象車両数の上限を解除し、中古の電気自動車を購入する人にも最大 4,000ドルのタックスクレジットを提供します。2022年12月31日以降に使用される自動車に対して有効になり、2032年まで有効です。

ソーラーパネル購入者へのタックスクレジット

現在の法律では、住宅所有者は、2020年から2022年の間に設置された太陽光発電システムに対して、26%のタックスクレジットを請求することができます。このクレジットは、2023年には22%に減少し、2024年を最後に終了する予定でした。しかし、今回の法案により、2022年から2032年までの間は、30%まで上昇し、その後は再び26%となります。

法人税の増加

10億ドルの収入を持つ企業は、年間の納税義務を2つの方法で計算する必要が出てきます。1つは従来通り利益の21%、もう1つは、株主に報告する財務諸表利益(book income)に、15%の税率を適用する方法です。 どちらか高い税額を支払います。従来通り利益の21%とは、所得控除と税額控除適用後の課税対象利益のことです。2022年12月31日以降から開始されます。

IRSによる税金取締強化

政府から新しく予算を割り当てられたことにより、IRSはテクノロジーシステムをアップグレードし、約80,000人の新しい税務職員、金融調査官、監査人を増やす予定です。 さらに、IRS には、何百万人もの納税者に関する詳細な財務データを収集するための、広範かつ侵略的な権限が与えられます。今後10年間、IRSは税金の取り締まりを強化し、税収を増やすことにより政府の財源を確保します。

企業の自社株買いに1%課税

当初、Carried Interest Loopholeの停止が法案に入っていましたが、この条項は廃止され、代わりに企業の自社株買いに1%の課税を行うという条項が加わり、740億ドルの歳入が見込まれています。

調整後総所得(Adjusted Gross Income)が、400,000ドル以上の納税者に対して、長期キャピタルゲインとして課税されるCarried Interestの保有期間が3年から5年に引き延ばされる予定でした。Carried Interestは、プライベートエクイティ、ヘッジファンド、ベンチャーキャピタルから、ジェネラルパートーナー(ファンド運営者)に支払われる成功報酬(通常は全体の20%)の一種です。この成功報酬に対して、一般所得税率が課税されるべきではないかという議論が長らく行われていました。

Loss Limitation extension(事業の損失相殺の制限延長)

Tax Cuts and Jobs Act(2017年税制改革法)により導入されたLoss Limitation extensionは、2026年に終了する予定でしたが、今回の法案により2年間の延長が決定し、2028年が最終となります。

具体的には、Loss Limitation extensionは、パススルー所有者が独身者の場合、250,000ドルを超える事業損失を、事業以外の収入に相殺することを禁止しました。 また夫婦合算申告者には500,000ドルの上限を設定しました。これらの上限は、インフレーションの調整により2022年には、それぞれ270,000ドルと 540,000ドルに引き上げられます。

まとめ

今回の大型法案の可決により税制の変更がありますが、その中でも多くのアメリカの納税者には気候変動対策によるタックスクレジットの恩恵や、IRSの税金取締強化について今後影響が出てくるのではないでしょうか。

特に、今後10年に渡りIRSの税務監査が増えることは間違いありません。一般的には、高所得者へ監査が増えると言われていますが、その他の納税者も正しく税務処理を行うことをお勧めします。不安な点があれば、問題が大きくなる前に税務専門家に相談しましょう。

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